【海外農業の新潮流】農産物は収穫して終わりではない――キウイの「食べ頃」を売るビジネス(中国)
私は中国ビジネスに長く関わり、中国への留学も経験していますが、最近、中国の農業で進む興味深い取り組みに注目しています。
その一つが、消費者が購入後すぐに食べられる「即食キウイ(即食猕猴桃)」です。
キウイは収穫後の追熟によって食べ頃を迎える果物です。購入したときには硬く、食べ頃になるのを待つ必要がありますが、時には待っているうちに傷んでしまうこともあります。
中国では、この問題を農家や消費者だけに任せず、生産、貯蔵、追熟、物流、販売を一体的に管理することで、新たな商品価値を生み出そうとしています。
私は、この取り組みには、日本の農業経営にも大いに参考になる視点があると思います。
アリババ――「食べ頃」から逆算する農産物流通改革
中国のアリババ傘下のデジタル農業事業と社区EC「淘菜菜」は、2021年から国産の即食キウイの商品化を進めてきました。
特徴は、収穫後の追熟技術だけではありません。

四川省や陝西省の産地と連携し、収穫時期の判断、品質検査、選果、追熟、予冷、保管、配送までを標準化しています。その過程では、果実を傷つけずに糖度などを調べる技術や、温度を管理する追熟設備などが活用されています。
私が興味深いと思うのは、「収穫した農産物をどう売るか」ではなく、「消費者が最もおいしく食べられる状態で届けるにはどうするか」という視点から、生産と流通を設計し直していることです。
これは、農産物の販売というより、消費者の食体験を設計するビジネスとも考えられます。
叮咚買菜――追熟技術と販売データを結び付ける
中国の生鮮EC企業、叮咚買菜(Dingdong Maicai)も、即食キウイの販売を進めています。
同社は2021年から取引先と協力し、浙江省嘉興市に専用の追熟施設を整備しました。
温度、湿度、ガス濃度などを管理し、販売見込みに応じて追熟を進めることで、食べ頃の商品を消費者に届ける仕組みを構築しています。

2023年の報道によると、同社の国産キウイ販売数量のうち、即食商品の比率は55%に達しました。
私は、この数字以上に、販売側の需要情報が生産・加工側の品質管理と結び付いている点に注目しています。
農産物は収穫量だけでなく、販売時期や品質のばらつき、廃棄ロスによって収益が大きく変わります。
販売データを活用して追熟や出荷を調整できれば、消費者の満足度だけでなく、事業全体の収益改善にもつながるのではないでしょうか。
日本の農業にも新たな事業機会がある
日本の農業でも、高品質な農産物の生産やブランド化には多くの努力が払われています。
しかし、私は、農産物の価値を高めるには、品種改良や栽培技術だけでなく、消費者を中心に据えた取り組みが必要ではないかと思っています。
例えば、桃、柿、アボカドなども、収穫後の品質管理や販売タイミングが消費者の満足度に影響する農産物です。
産地と食品卸、小売企業が連携し、選果、貯蔵、追熟、物流を最適化してサプライチェーンを組み直すことで、より高い付加価値を生み出せるのではないでしょうか。
一方で、追熟設備や品質管理には追加コストがかかります。販売価格の上昇、廃棄ロスの削減、安定した販売数量によって、その投資を回収できるかが事業化のポイントになるでしょう。
中国事業に携わってきた経験からも、中国企業が消費者ニーズを起点に、生産から販売までの仕組みを大胆に組み替える取り組みには、日本の農業にとって参考になる点が多いと感じています。
また、こうした取り組みは個々の農業生産者だけでなく、自治体が地域の農業振興を考えるうえでも参考になると思います。地域の生産者、食品加工企業、流通企業が連携して農産物の付加価値を高めることは、地域産業の新たな成長にもつながるのではないでしょうか。
農産物は、収穫した時点で価値が決まるわけではありません。
私は、消費者が購入し、実際に食べる瞬間までを見据えて商品価値を設計することが、日本の農業にとっても新たな成長機会になると考えています。
参考資料
- 北京日報(2022年10月12日)「淘菜菜即食猕猴桃科技助农路」
- 中国食品安全網(2023年11月13日)「“即食”成国产猕猴桃消费新趋势」
- 四川科技成果庫(2026年8月26日)「优质特色猕猴桃采后商品化精准处理关键技术与应用」
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