【海外の流通トレンド】米国スーパーの食事革命②――KrogerとHome Chefに見る食品小売と製造の融合
スーパーは、既存の食品を仕入れて販売する場所という従来の位置づけから、消費者の「食事そのもの」を提供する企業へと進化し始めていると感じています。前回は、米国のH-E-B「Meal Simple」とWegmans「Meals 2GO」を取り上げ、スーパーが家庭の食事づくりを支える存在へと変わりつつあることをご紹介しました。今回は、米国大手食品小売企業Kroger(クローガー)が、ミールキット企業Home Chef(ホームシェフ)を買収し、商品開発から販売までを一体化させてきた取り組みです。私は、この事例には日本の食品メーカー、卸、小売企業にとって重要な経営上のヒントがあると考えています。
2018年、KrogerはなぜHome Chefを買収したのか
Krogerは2018年6月、米国のミールキット企業Home Chefの買収を完了しました。当初対価は2億米ドルで、一定の業績目標の達成に応じて最大5億米ドルの追加支払いが設定されていました。Home Chefは、レシピと必要な食材を人数分に分けて家庭へ届けるサービスを展開し、2017年の売上高は約2億5,000万米ドルでした。
ここで私が注目したのは、Krogerが単に新しい食品ブランドを手に入れたわけではないことです。Home Chefが持つレシピ開発、食材の組み合わせ、加工・包装などの機能を自社の店舗網やEC事業と組み合わせることが狙いでした。つまり、食品を販売するだけでなく、消費者が毎日直面する「今日の食事をどうしようか」という課題への解決策を自社の事業に組み込もうとした新たな試みだった点です。
ミールキットから調理済み食品まで、食事の選択肢を広げる

Home Chefは、食材とレシピを組み合わせたMeal Kits、下ごしらえを減らし専用トレーでオーブン調理できるOven-Ready、電子レンジで温めるだけのHeat & Eatなど、調理時間や生活スタイルに応じた商品を展開しています。
私が注目したのは、消費者を「料理をする人」と「料理をしない人」に分けていない点です。平日は温めるだけの食事、週末は家族で料理を楽しむためのミールキットなど、異なる食事シーンのニーズに一つのブランドで対応しています。食品カテゴリーではなく、消費者の食事のシーンを起点に商品を開発している点に、このビジネスの特徴があると思います。
買収から3年で年間売上高10億ドルを突破
2021年10月、KrogerはHome Chefの年間売上高が10億米ドルを突破したと発表しました。商品展開は500品目以上に広がり、Kroger系列の2,200店舗以上で販売されていました。2017年の売上高約2億5,000万米ドルと比較すると、数年間で事業規模が大きく拡大したことがよく分かりますね。
私は、この成長にはHome Chefの商品開発力に加え、Krogerの店舗網、調達、物流、ECなどの販売基盤と強固なサプライチェーンが貢献したと考えています。2024年公表のKrogerのESGレポートでも、Home Chefは年間売上高10億ドル規模の自社ブランド群の一つとして位置づけられています。
小売と食品製造の境界が変わり始めている
従来の食品流通では、メーカーが商品を開発・製造し、卸を通じて小売企業が販売するという役割分担が一般的でした。しかし、KrogerとHome Chefの事例では、小売企業のグループ内に食事の企画、レシピ開発、食材加工・包装、販売までの機能が組み込まれています。川上の商品開発・製造機能を強化すると同時に、川下の消費者ニーズへの対応を深める事業構造の変化は注目すべき取り組みだと思います。
もちろん、すべての製造工程をKroger自身が行っているわけではありません。さらに2026年7月には、食事計画やレシピから買い物リストを作成できるAIショッピングアシスタントを発表しました。食事の検討から購入までをデジタル技術で支援する取り組みであり、日本の小売業にとっても参考になる事例だと思います。
日本の食品メーカー・卸・小売企業への示唆
私は、この事例から三つのことが重要だと考えています。
第一に、食品メーカーは個々の商品だけでなく、食事全体を提案する視点を持つことです。 例えば、肉や魚、野菜、調味料を組み合わせ、家庭で簡単に一食を完成できる商品開発です。
第二に、食品卸は単なる商品供給にとどまらず、複数メーカーの商品を組み合わせ、外食・中食・小売向けの食事提案を行う役割を広げることです。
第三に、小売企業はPB開発を単品商品の価格競争から、食事の利便性や品質を高める方向へ進化させることです。
ただし、食事型商品の事業化には、消費期限、需要予測、食品ロス、加工コスト、冷蔵物流などの課題があります。重要なのは、商品開発、製造、物流、販売を一つの事業として捉え、バリューチェーンを再設計することで、採算性の確保と収益性の向上に挑戦することだと思います。
スーパーが売るものは「食品」から「食事」へ
前回のH-E-BとWegmans、そして今回のKrogerとHome Chef。これらに共通するのは、スーパーが消費者のライフスタイルを見つめ直し、食事をより便利で豊かなものにしようとしていることです。
私は、今後の食品ビジネスでは、個々の商品をどう売るかだけでなく、消費者の食事を誰が、どのように設計し、提供するかが重要になると考えています。食品メーカー、小売、卸、外食という従来の業態の境界を越えたところに、新しい事業機会という宝箱が隠れているのではないでしょうか。
参考資料
- The Kroger Co.(2018年6月22日)
Kroger Completes Merger with Home Chef
https://ir.kroger.com/news/news-details/2018/Kroger-Completes-Merger-with-Home-Chef/default.aspx - The Kroger Co.(2021年10月25日)
Kroger's Home Chef Surpasses $1 Billion in Annual Sales
https://ir.kroger.com/news/news-details/2021/Krogers-Home-Chef-Surpasses-1-Billion-in-Annual-Sales/default.aspx - The Kroger Co.(2024年)
2024 Environmental, Social & Governance Report
https://www.thekrogerco.com/wp-content/uploads/2024/11/Kroger-Co-2024-ESG-Report.pdf - Home Chef(公式サイト)
Meal Kits・Oven-Readyなどの商品・サービス情報
https://www.homechef.com/ - The Kroger Co.(2026年7月28日)
Kroger Helps Families Simplify Back-to-Routine Season with Fresh, Convenient Meals and a Smarter Way to Shop
https://www.thekrogerco.com/ir-feed-item/kroger-helps-families-simplify-back-to-routine-season-with-fresh-convenient-meals-and-a-smarter-way-to-shop/

