日本の食品輸出は過去最高へ――これからの海外展開に必要なのは「輸出する」から「市場をつくる」への転換

2026年上半期の農林水産物・食品輸出額は8,977億円と前年同期比10.9%増え、上半期として過去最高を更新しました。輸出先は米国、香港、中国が上位で、水産物は前年同期比19.5%増となっています。2025年通年も1兆7,005億円と、13年連続で過去最高となりました。

この数字だけを見ると、日本食品の海外展開は一見順調に拡大しているように見えます。しかし、食品関連企業の立場から考えると、私は「日本の商品を海外へ輸出する」という発想だけでは、今後のさらなる成長には限界があると感じています。

今後さらに海外市場を拡大するには、「海外市場で継続的に売れる仕組みをつくる」ことへの意識の転換が求められる時期に来ています。

輸出額の拡大と、企業の海外事業化は同じではない

2026年上半期の輸出先を見ると、米国向けは1,626億円で前年同期比15.3%増、香港1,100億円、中国940億円、台湾882億円となっています。背景には、日本食への関心、インバウンドによる認知向上、健康志向に加え、既存商流での取扱量拡大や新規商流の獲得があります。

一方、個々の食品関連企業に目を向けると、「輸出実績があること」と「海外事業が確立していること」は必ずしも同じではありません。

輸出商社に商品の販売を任せたまま、自社では特段の市場開拓や情報収集を行わず、最終的にどの国の、どの販売チャネルで、誰が購入しているのかを十分把握できていないケースも多く見られます。

日本食市場の拡大に比例して販売数量は増えていくかもしれません。しかし、企業自身の中に海外市場に対する知見が蓄積されなければ、海外事業への取り組みのレベルがなかなか向上しないというジレンマに陥る企業もあるのではないでしょうか。

今後の海外展開では、**「国×商品×顧客×販売チャネル」**まで具体化することが重要だと考えます。

「日本で売れている商品を、そのまま海外へ」から次の段階へ

海外市場を開拓する際、日本国内で販売している商品をそのまま持っていき、現地の輸入業者を探すところから始める企業は少なくありません。

海外市場に関する知見がまだ十分でない段階では、まず一歩踏み出してみるという意味で、私はそれでもよいと思います。

しかし、実際に海外市場開拓に取り組んでみると、現地消費者の味覚、価格水準、容量、パッケージ、食習慣、使用方法、競合商品、食品規制などが国ごとに異なることが分かってきます。

したがって、輸出市場開拓の開始当初は商品を起点に販売先を探す方法でもよいのですが、活動のレベルをさらに高めていくためには、最初に商品があって販売先を探す「プロダクトアウト型」だけではなく、

どの市場を狙うのか → 誰に販売するのか → どの用途で使ってもらうのか → どの商品・価格・容量が適しているのか → どの販売ルートで届けるのか

という順番で市場を設計する、マーケットインの発想が重要になってきます。

農林水産省も輸出拡大戦略においてマーケットインによる海外市場開拓を進めており、2030年には農林水産物・食品輸出額5兆円、食品産業の海外展開による収益額3兆円という目標を掲げています。

中堅・中小食品企業にも海外市場の機会はある

海外展開というと、何となく大手食品メーカーの取り組みというイメージがあるかもしれません。しかし私は、むしろ特徴ある商品や技術を持つ中堅・中小食品企業にも大きな可能性があると考えています。

例えば2025年には緑茶の輸出額が720億円となり、前年比98.2%増加しました。特に欧米や東南アジアで、抹茶などの粉末茶がラテやスイーツの原料として伸びています。

これは日本の商品をそのまま販売するだけでなく、現地の用途や食文化と組み合わせることで、新しい市場が生まれることを示す一例です。

食品素材、調味料、水産加工品、菓子、飲料など、幅広い分野や商材にも潜在的な可能性があると私は感じています。

大切なのは、「海外で日本食ブームになっているから自社も輸出に取り組もう」という発想だけではなく、自社商品の特徴が、どの国の、どの顧客の、どのような課題やニーズに適合するのかを見極めることです。

海外展開を「輸出」ではなく「事業」として考える

日本の食品輸出市場には、今後も拡大余地があります。一方、政府は2030年の輸出額5兆円を目標としており、2025年実績1兆7,005億円から考えれば、さらなる市場拡大が必要です。

企業側にも、単発の輸出ではなく、海外市場を一つの「事業」として捉える視点が求められます。

市場を選び、顧客を定め、商品を市場に合わせ、現地パートナーと販売チャネルを構築する。そして、実際の販売結果を確認しながら商品や販売方法を修正していく。

こうしたトライ&エラーを経験する中で、自社なりの「勝ちパターン」を見つけ、そのサイクルを回していくことによって初めて、海外売上を継続的な事業へと育てることができます。

さらに、これからは自社だけで市場を開拓するのではなく、時には他社の商品や強みと連携し、新たな事業の仕組みそのものをつくっていくという発想も必要になるでしょう。

日本食品の海外展開が次の段階へ進むためには、**「何を輸出するか」だけでなく、「海外でどのような市場をつくるか」**という視点が、これまで以上に重要になると考えています。

【参考資料】

農林水産省「2026年上半期の農林水産物・食品の輸出実績」

JETRO「2026年上半期の農林水産物・食品輸出」

農林水産省「農林水産物・食品の輸出促進」

JETRO「2025年の緑茶輸出」

農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績」