アジア発FoodTechの新潮流――食品ロス、機能性素材、AI規制対応から見える5つの新たな事業機会

世界のFoodTechというと、代替肉や培養肉、精密発酵などの新しい食品製造技術を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし最近、アジア太平洋地域では、食品ロスの削減、既存農産物の高付加価値化、食品規制への対応など、食品企業が日常的に直面する課題を解決する技術やサービスが登場しています。

2026年10月9日、食品業界専門メディアFoodNavigatorは、「Global Food Tech Awards 2026」のアジア太平洋地域における選考候補5社を発表しました。

韓国、台湾、インド、オーストラリアの企業が選ばれており、食品ビジネスの川上から川下まで、多様な事業領域を対象としている点が興味深いところです。

今回は、この5社の取り組みから、日本の食品企業にとっての新しい事業機会を考えます。

1.韓国とインド――食品ロスを減らし、新しい価値を生み出す

韓国のFutureSenseは、食品サプライチェーンの管理システム「Food4Chain」を開発しています。

農産物の栽培から食品製造、流通までの商品情報をブロックチェーンなどで追跡し、AIを活用して食品ロスの発生場所や数量、コストを分析する仕組みです。

食品ロスを単なる廃棄物の問題ではなく、サプライチェーン全体の収益改善につながる経営課題として捉えている点が特徴的です。

一方、インドのThe Misfitsは、形状や外観などを理由に通常の販売ルートから外れる農産物を活用して、新しい加工食品を開発しています。

例えば、ココナッツを使ったスプレッドや、モリンガを組み合わせたペスト、アシュワガンダを使用したオニオンレリッシュなどです。

規格外農産物を安価に処分するのではなく、商品開発によって新しい販売価値を生み出している試みは注目に値します。

両社に共通するのは、食品ロスをコストとして処理するだけでなく、事業改善や新商品開発の機会として捉えていることです。

2.インドと台湾――身近な植物素材から新しい食品原料を開発

インドのMileWise Innovationsは、発芽させた雑穀を活用した食品原料を開発しています。

同社によると、開発した雑穀粉は低GI、高タンパク、グルテンフリーを特徴としながら、小麦粉に近い加工適性を目指した原料です。

食品メーカーや加工事業者への原料供給を主な事業としており、自社商品として、1食当たり18gのタンパク質を含む「Boost Bun」も展開しています。

台湾のOxperial BioHealthは、植物由来の機能性成分に注目しています。

低温抽出技術と独自の製剤技術を組み合わせ、植物素材に含まれる成分の特性を生かした商品開発を進めています。すでに台湾では「PropoLight」という商品を販売しています。

両社の取り組みで注目したいのは、まったく新しい原料を探すのではなく、既存の農産物に加工・抽出・製剤技術を組み合わせ、新しい用途や価値を生み出していることです。

日本の食品原料メーカーにとっても、既存素材の高付加価値化を考えるうえで参考になる動きだと思います。

3.オーストラリア――食品規制への対応にもAIを活用

オーストラリアのProduxiom Systemsは、食品関連企業の規制対応業務を支援するクラウド型システムを開発しています。

商品仕様書、原料情報、食品表示、包装デザイン、規制要件などを一元管理し、AIを活用して表示内容や規制上の問題点を確認する仕組みです。

食品企業が新商品を開発したり、海外市場へ進出したりする際には、原材料の使用基準、食品添加物規制、栄養成分表示、アレルゲン表示など、多くの確認作業が必要になります。

特に複数国へ展開する場合には、国ごとに規制が異なるため、確認作業の負担が大きくなります。

こうした業務をデジタル化することは、商品開発の効率化や海外展開の迅速化につながる可能性があります。

ただし、AIによる確認結果だけで法規制への適合が保証されるわけではなく、最終的には専門家による確認が必要です。

4.日本の食品関連企業にとっての事業機会

今回の5社は、それぞれ異なる技術や事業モデルを持っています。

しかし、共通しているのは、食品産業が抱える具体的な課題から事業を構想していることです。

食品ロスの発生場所を可視化する。規格外農産物を新商品に変える。既存の穀物や植物素材から高付加価値原料を開発する。複雑な食品規制への対応を効率化する。

いずれも、食品企業にとって身近な課題です。

私は、これからのFoodTechでは、革新的な技術そのものだけでなく、既存の食品産業の中で、どのような経営課題を解決できるかが、事業化の重要なポイントになると考えています。

日本には、優れた加工技術を持つ食品メーカー、地域の農産物を扱う企業、独自の調達・販売ネットワークを持つ食品卸など、多様な事業基盤があります。

こうした既存の強みと新しい技術や発想を組み合わせることで、新規事業の可能性はさらに広がるのではないでしょうか。

特に中小食品企業にとっては、すべての技術を自社開発する必要はありません。国内外のスタートアップや研究機関などと連携することも、有力な選択肢になります。

FoodTechは、特別な技術を持つ企業だけのものではなく、既存の食品ビジネスを新しい視点で捉え直すことからも始まる。

今回紹介したアジア太平洋地域の5社は、そんな可能性を示しているように思います。


参考資料