【海外食品メーカーの事業戦略】ホエイ(乳清)を高付加価値素材へ――欧州Arla Foodsに学ぶ新たな成長モデル
乳製品メーカーの収益改善というと、原料乳の調達価格の見直し、製造歩留まりの改善、物流費の削減、販売価格の改定などがまず思い浮かびます。
しかし、昨今の原材料費やエネルギー価格、人件費の上昇などを考えると、従来のコスト改善や価格改定だけで収益を伸ばすことは、決して容易ではないと感じている事業関係者も多いのではないでしょうか。
私は、ここにもう一つ重要な視点があると考えています。
同じ原料から、どれだけ異なる価値を生み出せるか、ということです。
今回、私が注目したのは、欧州の乳業協同組合Arla Foods(アーラ・フーズ)の取り組みです。
乳製品だけでなく「食品素材」が成長をけん引
Arlaが2026年2月に公表した2025年通期決算では、グループ売上高は約151億ユーロ(約2兆6,500億円)、純利益は4億1,500万ユーロ(約730億円)でした。
注目したいのは、食品素材事業Arla Foods Ingredients(AFI)の売上高が14億5,200万ユーロ(約2,550億円)となり、前年比43.1%増加したことです。
ただし、この増収には2024年末に取得したVolacのホエイ栄養事業の統合や、原料・製品価格の影響も含まれるため、43.1%をそのまま既存事業の数量成長と解釈することはできません。
それでも、2026年上期のAFI売上高は前年同期比19.3%増の8億6,700万ユーロ(約1,520億円)となり、付加価値素材部門の販売数量も5.7%増加しました。Arlaは、世界的なたんぱく質需要の強さを成長要因に挙げています。
チーズ製造の副産物を、顧客の課題を解く素材へ

ホエイ(乳清)は、チーズなどの製造過程で生じる液体成分です。Arlaはそこからたんぱく質を分離・加工し、スポーツ栄養、乳幼児向け栄養、医療・栄養食品、一般食品向けの素材を展開しています。
例えば、2025年に発表した「Protein Soda」は、特殊なホエイたんぱく質を使い、1回分当たりたんぱく質10グラム、糖類ゼロを想定した飲料の製品開発コンセプトです。
これは一般消費者向けに発売された完成商品ではなく、食品メーカーに対して、新しい飲料カテゴリーを開発するための素材と技術を提案するものです。
さらにArlaは、米国の乳業会社Valley Queenと特殊ホエイたんぱく質の委託製造契約を締結しました。需要地に近い生産体制を確保する動きです。
私は、こうした取り組みから、素材の機能だけでなく、安定供給まで含めてサプライチェーンを強化し、国際競争力を高めようとする戦略がうかがえると思います。
なぜ、食品素材事業が経営戦略になるのか
乳製品は、原料相場、需給、エネルギー価格などの影響を受けやすい事業です。単に製造量を増やしても、利益が比例して増えるとは限りません。
一方、機能性素材では、たんぱく質含有量だけでなく、溶解性、風味、加工適性、品質の再現性、顧客への開発支援なども選定理由になります。価格だけでは比較されにくい価値を生み出す余地があります。
私は、Arlaの戦略を単なる「副産物の有効利用」として捉えるのは、もったいないと思います。
原料の価値を高める研究開発、用途開拓、顧客との共同開発、供給体制までを一体的に捉え、バリューチェーン全体を見直して事業を構築していること。
そこに、この事業の本質があるのではないでしょうか。
日本の食品企業が考えるべき三つの経営判断
第一に、既存原料を製品別ではなく「機能別」に見直すことです。
現在は比較的低価格で販売している中間原料でも、栄養、風味、食感、加工適性という観点から捉え直せば、新たな用途や顧客が見つかるかもしれません。
第二に、技術開発だけを先行させず、用途と顧客を明確にすることです。
高機能な素材が開発できても、顧客が求める価格、品質、安定供給量に合わなければ、事業として成立しません。
第三に、必ずしも自社ですべての設備を保有しないことです。
分離・濃縮などの加工を外部企業と連携して行い、販売先との共同開発を進める方法も考えられます。ただし、原料の回収・保管コスト、歩留まり、加工費、品質保証費用などを含めた採算性の検証は不可欠です。
Arlaの事業規模や欧州の乳業構造を、そのまま日本の中小食品企業に当てはめることはできません。
それでも、原料を単に「使い切る」ことと、顧客が対価を払う価値に「作り替える」ことは、大きく異なります。
私は、食品メーカーの次の成長機会は、新しい原料を探すことだけでなく、すでに扱っている原料の価値を再定義するところにもあると考えています。
企業規模の大小を問わず、自社の原料、技術、顧客との関係を改めて見つめ直すことが、新たな事業機会を発見するきっかけになるのではないでしょうか。
参考資料
- Arla Foods(2026年2月18日)「Arla Foods posts strong results in a record year」
https://www.arla.com/company/news-and-press/2026/pressrelease/arla-foods-posts-strong-results-in-a-record-year/ - Arla Foods(2026年8月27日)「Surging brands and strong protein demand drive Arla Foods to a standout first half」
https://www.arla.com/company/news-and-press/2026/pressrelease/surging-brands-and-strong-protein-demand-drive-arla-foods-to-a-standout-first-half/ - Arla Foods Ingredients(2025年5月6日)「Protein Soda concept」
https://www.arlafoodsingredients.com/about/press-releases/arla-foods-ingredients-showcases-protein-soda-concept-at-vitafoods-europe/ - Arla Foods Ingredients(2025年3月3日)「Valley Queen agreement」
https://www.arlafoodsingredients.com/about/press-releases/arla-foods-ingredients-strengthens-us-foothold-with-valley-queen-agreement/
※日本円は2026年10月28日時点の参考為替レート(1ユーロ=175.6円)で概算しています。各決算期間の平均為替レートによる換算ではありません。


